日本全国の都道府県には、それぞれの地域でたくさんの方言があります。
聞いてなんとなく意味がわかる言葉もあれば、他県の人には全く意味がわからない言葉もあります。
または、同じ言葉なのに全く違う意味合いになって認識のすれ違いが起きてしまったなんてことも・・・
そんなおもしろい日本の方言の中で、熊本県では「あとぜき」という方言がよく使われています。
九州地方には福岡県の博多弁や鹿児島県の鹿児島弁など独特の方言がたくさんありますが、この「あとぜき」という言葉は熊本県特有の熊本弁です。
この言葉は、日本の中で熊本県だけでしか使われない珍しい方言なのに、熊本では当たり前のように日常で使われていて、しかもかなり深い意味も持っているんです。
熊本弁を代表する「あとぜき」について、意味や使い方そして語源や由来まで詳しくまとめます。
「あとぜき」は熊本県で使われる方言!県民には当たり前の言葉?
某高校(熊本県)『あとぜき』の意味は何となくわかるけど普通に学校の扉に貼ってある事にビックリ!これはれっきとした熊本弁。 pic.twitter.com/v4ui9FWMh7
— ふじきん (@saku_12325) May 10, 2014
一口に方言と言っても、現在はほとんど使われなくなっている言葉も多いですし、一部の地域や一部の高齢者しか使わない方言も多いです。
しかし、熊本県の方言「あとぜき」は、現代でも日常で当たり前のように使われている一般的な言葉なんです。
しかも、世代も全く関係ありません。
小学校でも普通に使われるので、子供からお年寄りまでなじみのある言葉なんですよ。
あまりに日常的に当然のように使われているので、熊本県民には「あとぜき」が日本全国で使われている共通語と思っている人も少なくないんだとか。
「あとぜき」の意味は「扉やドアを開けたら閉める」の熊本弁!
開けたら閉める、は熊本弁であとぜきと言います#ラジオ沖縄
#ティーサージパラダイス#あとぜき pic.twitter.com/MXGQaxlXE8— 葛飾(かつしか)のちん (@chin_katsushika) December 23, 2019
熊本県ではおなじみの言葉「あとぜき」の気になる意味ですが、「開けたドアや戸を閉める」という意味になります。
「自分で開けた扉を、ちゃんと自分で閉めましょう」という意味です。
使い方としては、開けたドアを閉めるように注意する場面や、閉め忘れを教えるときに使います。
特に、冷暖房を使う季節には「あとぜき」を耳にする機会が増えますね。
ドアを開けて入った後に閉めないでいると、熊本の人に「あとぜきばせんね!」と怒られてしまいますよ。
「あとで席に座る」や「あとで咳をする」といった意味では決してありませんので、間違えないようにしましょう。
ドアや引き戸に貼り紙で「あとぜき」と書かれている光景もよく見かける
口で言うだけでなく、ドアなどの扉に「あとぜき」と書かれていることも多いです。
学校の教室や図書館などの公共の施設から、飲食店やコンビニなどのお店までいろいろな建物の入り口のドアや扉に「あとぜき」の貼り紙がしてあります。
「あとぜき」とひらがな4文字だけ書いてあるケースもありますが、「あとぜきしましょう」「あとぜきをお願いします」などの文章で書いてある場合が多いです。
ただ、文章で書かれていたとしても、他の都道府県出身の人が見たら「何これ?」と、まさにナニコレ珍百景状態ですね。
熊本で「あとぜき」の貼り紙を見かけたら、ドアの閉め忘れに注意しましょう。
「くまもとサプライズ」の歌詞にも登場!くまモンがポーズで締める!
「あとぜき」は、日常会話や貼り紙での掲載だけでなく、歌の歌詞にまで登場します。
その歌とは、熊本県のご当地キャラクター「くまモン」のテーマソング「くまもとサプライズ」です。
くまモンは熊本県をPRするマスコットとしてとても有名ですが、そのテーマソングの歌詞に「あとぜき」が出てきます。
しかも、歌の最後で「ハイ、おしまい。あとぜき」と、締めに使われているくらいなんです。
テーマソング「くまもとサプライズ」には、曲にのって踊る「くまモン体操」として振り付けまでついています。
「くまもとサプライズ」の歌と「くまモン体操」の振り付け動画はこちら。
(2分30秒から、最後のサビと「あとぜき」と歌われている部分になります)
最後の「あとぜき」の部分の決めポーズでは、両手でしっかりドアを閉める動作が表現されていますね。
くまモン自身が、ダンスの振り付けで正しい使い方を広めている熊本弁の1つなんです。
「あとぜき」は漢字でどう書く?語源をたどると日本の古語?
熊本県の方言「あとぜき」は、熊本県内で日常的に耳にする言葉です。
さらに、貼り紙で目にすることも多い熊本弁です。
ただ、ひらがなで「あとぜき」と書かれていることが多く、漢字表記はほぼ目にしません。
「あとぜき」は、漢字ではどう書くのでしょうか?
語源や由来を知ると、漢字でどう書くのかがわかります。
漢字では「後塞」や「後堰」と表記する!意味と由来を考えるとわかる!
「あとぜき」は、漢字では「後塞」または「後堰」と書きます。
この書き方は、「あとぜき」の本来の意味や由来を考えるとわかりますよ。
あとぜきは「あと」と「ぜき」の2つの言葉に分けることができ、「あと」は「後」のことで、「ぜき」は「塞く・堰く(せく)」という動詞を名詞にした形が濁ったものです。
「塞く・堰く(せく)」は、「せき止める」という言い方もあるように、「ふさぐ」の意味があります。
つまり、「扉をせく」で「扉をしっかり閉じる」というニュアンスになります。
「自分が開けた後(あと)のドアを塞く(せく)」ことから、「あとぜき」という名詞形の言葉が生まれたんですね。
もともとは熊本県の方言ではなく、奈良時代の古語だった?
「あとぜき」は、現在は熊本県内でのみ使われる言葉ですが、その由来は奈良時代にまでさかのぼると言います。
「塞く(せく)」という動詞は奈良時代の古語であり、せき止める意味やふさぐ意味の「せく」は、その名残と言われています。
そのため、熊本県以外の九州の地域でも閉じる意味で「せく」という言葉は使われることがあります。
ただ、「あと」という言葉と合わせて「あとぜき」と使っているのは熊本県だけなので、やはり熊本ならではの言葉と言っていいんじゃないでしょうか。
「あとぜき」を標準語に直すと何?「開放厳禁」との違いは?
「あとぜき」を標準語と思っている熊本県民も多いですが、れっきとした熊本弁の言葉です。
では、「あとぜき」を標準語に直すとどう言えばいいのでしょうか?
あとぜきは「自分で開けたドアを自分で閉める」という意味なので、標準語では「開けたら閉める」といった感じの表現でしょうか。
なんか、ちょっとしっくり来ない感じもしますね。
それを考えると、ひらがな4文字の一言で的確に表現できる「あとぜき」ってすごい言葉なんじゃないでしょうか。
ほかの地域でもドアに貼ってあるのを見かける「開放厳禁」が、あとぜきの標準語ではないかと思うかもしれませんが、実はちょっと意味が違います。
「あとぜき」は「自分で開けた戸を自分で閉める」という意味ですが、「開放厳禁」は誰が開けようが誰が閉めようが閉まっていればいいんです。
あとぜきは、「自分でちゃんと責任を持って開けた扉を閉めましょう」という責任感を教える言葉でもあるんですね。
「何事もやりっぱなしはダメ」という思いを込めた熊本の言葉
熊本県の方言「あとぜき」について、意味と使い方などをまとめました。
日本全国でも熊本県内でしか使われない熊本弁の言葉ですが、熊本では全国の共通語であるかのように日常で使う言葉です。
しかも、標準語では一言では表せない言葉であり、「自分でしたことを、ちゃんと自分で責任を持って片づけましょう」という教えまで含んでいる言葉です。
ただ短く言いやすくて便利なだけでなく、「何事もやりっぱなしはダメ」という深い意味や思いも込められています。
「一番好きな熊本弁」の1位に選ばれたのも納得です。
熊本県で、ずっと愛され使われ続けている言葉が「あとぜき」なんですね。